書評 額賀 信(著) 「観光革命-スペインに学ぶ地域活性化-」

北海道大学大学院経済学研究科 関口恭毅

労働力人口減少の影響を極力弱め、しかも、さらに地域経済を発展させる原動力の一つ として観光を位置づけ、観光産業振興を推進する上での課題を論じている。著者はちばぎん総合研究所の所長を務める元日銀神戸支店長でオックスフォード大学 経済学修士(M.Phil)である。 製造業では経済の活性化は可能であっても、地域の活性化は困難であると考える著者は、観光産業の振興こそが地域の人 口(定住人口+交流人口)を増大し、地域における消費を拡大する大きな効果を持つと説く。観光(産業の振興-評者補足)を(1)地域の魅力を高め、(2) ヒトを引きつけ、(3)所得を確保することであると定義する著者の思想には共感できるところが多い。

第1章では、伝統的には施設・設備の 整備による国内消費の贈大のよる内需拡大を狙っていた観光振興が、最近は環境保護と外国人観光客誘致による国・地域作りを基本に据えている。従って、国や 地域の行政が国際競争力を持つことが必要になっていると説く。第2章では現在のような需要力不足時代の人口減少では、需要拡大が経済活性化、地域活性化の キーポイントであるとして、観光による交流人口の増大こそがその解決策として期待されるとする。第3章は、本書の最もおもしろい部分であろう。観光産業の 経済波及効果はほとんど全産業に及び、雇用増大効果も大きいことが示される。昨今、我が国では所得分配を課題とする論調が主流であるが、所得創出こそ目指 されるべきである。観光によりそれを実現するには魅力ある地域作りこそ重要である。などが論じられる。

第4章は観光立国先進国としてスペ インに注目し、その振興策に学ぼうとしている。そこで注目されることは、観光統計はスペイン観光を支える最も基本的なインフラである、と有効な観光政策に とってのデータ整備の重要性を指摘している点である。スペインでは、翌月の20日までに観光客数、国籍、宿泊日数などが公表され、観光収入額も2ヶ月半遅 れで公表されるという。

以上のように、本書は地域振興と情報技術の側面から観光を考えるよいヒントを与えてくれる。最後に、本書の章と節の標題を示しておく。

序章 観光が広げる可能性
第1章 大競争を勝ち抜く観光立国
1 観光事業の再出発と「大競争」
2 サービス産業が決める日本の未来
3 観光は地域発展の推進力
第2章 人口減少社会を救う交流活力
1 人口減少社会の到来
2 神戸が示した人口減少の痛み
3 人口減少の経済学
第3章 持続する観光効果
1 観光の経済効果
2 始まった観光立国推進の動き
3 「観光」を定義する
第4章 スペインに学ぶ観光立国
1 行動する観光大国
2 一人二役が広げる可能性
3 観光推進上の問題点と行政の役割
あとがき

□書籍
観光革命―スペインに学ぶ地域活性化
著者:額賀 信
日刊工業新聞社 ; ISBN: 4526052728 ; (2004/03)

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