会長挨拶
大薮多可志 ((学)国際ビジネス学院学院長)
このたび,特定非営利活動法人(NPO法人)観光情報学会会長に就任することとなりました.初代会長 大内東先生,二代会長 松原仁先生の下で副会長職を務め種々お世話になりました.両会長とは少し専門領域を異にする面がありますが,学会の更なる発展に向け全力を尽くしたいと思っております.本学会の運営につきましては,これまでの戦略を継承しつつ,会員の皆様がより参加しやすく入会しやすい学会になるよう進めてまいりたいと考えておりますので,皆様のさらなるご支援の程お願い申し上げます.
日本は,東日本大震災により大きな試練を体験してきています.災害時の避難誘導や連絡体系の確立が強く求められ,安全・安心な社会基盤構築へと舵をきる時期が到来しています.また,少子高齢化に伴う人口減少社会に対応した基盤整備が求められています.このとき,スマートフォンをはじめとするICT利活用が必要不可欠といえます.特に,街づくりや防災,観光分野へは積極的な応用が図られつつあると同時に,一般への浸透も高まってきています.総務省によると,日本の情報インフラは世界一であるといわれていますが,その利活用は18位くらいと後れをとっているのが現状です.社会コスト軽減のためにも増々の利活用が求められます.特に,観光分野においては訪問者の様々な要求に応えるべくICT利活用が試みられてきていますが,まだまだ不十分な側面があることは否めません.新たなコンセプトのもとにICT利活用策を構築していく必要があります.その一つが地理空間情報を活用した技術(Geotechnology)です.総務省ではG空間情報技術と呼んでいます.これまで地理情報システム(GIS:Geographic Information System)がありましたが,これを高度に利用し政策などに積極的に活用するものです.
G空間情報とICTを結びつけることにより各種の特徴ある先端的なシステムを構築することができます.すなわち,「いつ,どこで,なにが」という情報を得ることができます.ヒトの行動が把握でき各種戦略構築に応用可能となります.これらの情報は,ビッグデータとしてプライバシーに配慮し十分に注意し取り扱うことはいうまでもありません.現在,カーナビや天気予報などに利用され災害時に大きな貢献を果たしました.観光分野にも活用が求められていくことは必須です.どのような属性の観光者が,どこで,なにをして何処を周遊し何を購入したかなどの情報を収集し,観光戦略を立てることが可能となります.「G空間×ICT」システムといえます.当該システムにより一般の観光者のみならず,住民や障がい者のサポートも可能となります.
新たな時代に向けて,本学会が観光戦略や街づくりの中核学会として機能するよう取り組みを行っていく必要があります.2013年に日本を訪問した外国人が初めて1千万人を超えましたが,その消費額が日本の名目GDPの約0.3%に留まっています.フランスの2.0%に大きく水を開けられています.日本政府は,訪日外国人を2020年に2千万人,2030年に3千万人を目標にしています.東京オリンピック・パラリンピックが2020年に開催され,これまでの2倍にも上る外国人客が日本を訪問する予定です.ICTによる最高の「おもてなし」環境を構築しておく必要があります.訪日外国人が日本訪問時に不便だと思った項目として,英語が通じない,英語の案内表示が少ない,インターネット環境(Wi-Fi環境)が悪いなどの指摘があります.オリンピック開催までの大きな課題です.ただ,世界の各機関と(独)情報通信研究機構が中心となって進めているスマートフォンでの各国語への自動翻訳や聴覚障害者とのコミュニケーション(手話表示)ツールなどが開発されつつあり対策も進んでいます.デジタルサイネージなどと組み合わせると大部分の不便さを解消できることになります.この解決策の多くをICTが担うことになります.観光庁も観光立国を目指し,観光者の位置情報などとともに収集したビッグデータを活用し,新たな観光ルートやスポットの開発に生かすとのことです.
金沢市(2015年)や函館市(2016年)に新幹線が開業します.成田や羽田のみならず地方空港からも多くの観光者が入国し,世界で最も安全な新幹線を利用し各地を訪問します.新幹線内でもWi-Fiが利用できます.飛行機内でもWi-Fiが利用できる環境を整備する動きもあります.北陸と北海道では,新幹線開業が千歳一隅のチャンスと捉え広域観光プロモーション活動を行っています.本学会も正確なデータを収集し時代に即した戦略を提案していく必要があります.また,訪問者の利便性や安全・安心を高める学術的な提案を行っていくことも求められます.
これから本学会が担う役割と重要性が高まることは明らかです.会員の方々のみならず支部組織である各観光情報研究会も地域や目的に即した学術研究を進め貢献していくことが必要です.地域には固有の課題があり,他の地域での成功事例をそのまま導入しても同様な成果が得られるとはかぎりません.各研究会の地域に密着した取り組みやアイデアが求められ,その役割が増していくことになります.そのことが本学会活性化の重要な要因といえます.会員各位のご支援とご協力を重ねてお願い申し上げます.